小さな男の子の早すぎる別れ
大好きだったキャラクターを思わせる生花祭壇は
花でしかできなかった最後の贈りもの
小さな命に寄り添う想い
十数年前のある日、届いた一件の花祭壇の依頼。
亡くなったのは、幼稚園に通う年頃の小さな男の子でした。突然の別れに家族は深い悲しみに沈んでいました。
その夜、葬儀社との打ち合わせに向かった担当の中台さんは、家族とは直接お会いできなかったものの、葬儀社の担当者から、大きな丸い耳が可愛いあの人気キャラクターを大好きだった子だと教えてもらいました。
中台さん自身も葬儀社の担当者も、ちょうど子育て中の親だったこともあり「何かしてあげたい」という気持ちは自然と湧き上がりました。
すでに生花祭壇の基本デザインは決定していましたが、どうにかして、そのキャラクターを思わせる要素を取り入れられないか。中台さんはそのキャラクターの大きな丸い耳のシルエットを花で描くことを提案しました。予算は変えず、可能な限りの工夫を凝らすことを決めました。

花で描くさりげない隠れシルエット
ヒントになったのは、テーマパークで大人気の「隠れキャラクター探し」。
あの特徴的な丸いシルエットを花で表現するアイデアが生まれました。
小さな花を3つ組み合わせて作る形。その再現には丸くて愛らしいピンポンマムという花を使用しました。花の配置や配色に工夫を凝らし、祭壇のあちこちに隠れキャラクターを散りばめていきました。花で作ったキャラクターの形に気付いた時に微笑んでくれるように、優しさがつまった仕掛けです。
祭壇は明るく、優しい色合いの花々で。男の子の可愛らしさやあたたかみを感じられるように色味も形も、細部まで気を配りました。キャラクターそのものを飾るのではなく花で表現することで、その子のためだけの特別な空間に変えてくれました。

笑顔がこぼれる空間に
葬儀当日、お母さんからいただいたのは深い感謝の言葉とともに「これならお友だちが怖がらずに来てくれる」という安堵の声でした。
葬儀に参列するのは家族や親族に加え、たくさんの園児たち。
そんな小さなお友だちが厳かな大人の祭壇だったら怖がってしまうのではないかと家族はとても心配していたそうです。花でやさしく表現されたキャラクターのシルエットによって、お母さんが抱いていたその不安は和らぎました。
祭壇を見た子どもたちは「あっ、見つけた!」「ここにも!」と嬉しそうな声を上げながら、自然な笑顔を見せてくれました。
ご葬儀のあと、家族からは「本当に、安心してお別れができました」と感謝のお言葉をいただきました。
その日、その空間が悲しみだけでなく、ほんの少しの安心と微笑みに包まれた時間となったこと。
それは、花がもたらしてくれた大きな力でした。
花だからこそ伝わるその子らしさ
改めて強く感じたのは花でできることの多さでした。
キャラクターのパネルや写真を飾るだけでは生まれないその子らしさが、花によって柔らかく、確かな存在感で表現することができるということ。
花は、その色や形、配置によって、優しさも温かさも凛とした強さも表現できます。そして、花で作られた空間は、そこに集う人々の感情や記憶を静かに包み込んでくれます。
キャラクターの隠れシルエットがたくさん散りばめられた生花祭壇は、まさにその子の笑顔や好きだったもの、過ごした時間、そのすべてが花を通じて形になり、かけがえのない空間となりました。
花には、人の想いを伝える力がある。
花の力をあらためて深く感じ、一つひとつの別れに真摯に向き合うことの尊さを改めて胸に刻んだ一日でした。

【担当者の一言/中台さん】
多くのお葬式に関わらせていただく中で特に印象にのこったお葬式の一つです。 花の出来ること、花にしか出来ないことをこれからも可能な限り磨いていき、これからもお葬式・お別れの会の価値を伝えるための助けになれればと思っています。
株式会社ユー花園
〒154-0015 東京都世田谷区桜新町2-12-22
TEL:03-5477-1187
【取材後記】
何より印象的だったのは「この子にできる限りのことをしてあげたい」という中台さんのまっすぐな想いです。花はただ美しく飾るためのものではなく、大切な人への祈りや愛情を託すための手段なのだと感じさせられました。花は想いをかたちにできる。そんな力を信じて歩み続ける姿勢に、深い敬意を抱きました。
