忘れらない最後の一言【お葬式のむさしの】

喪主の挨拶
最後にこぼれた妻への本音は
ユーモアと愛にあふれた
一言でした

一本の電話

お葬式のむさしので15年勤める新井さんの記憶に今も深く残るお式があります。
それは、とあるご主人の奥様が亡くなったときのことでした。

奥様を在宅で看取ったご主人。
地域でも顔の広い、頼れる兄貴分のような存在だった方でした。もともと新井さんとは、ご近所の葬儀を通じて知り合い、面白い人でユーモアも交えて話す方だと感じていたそうです。そんなご主人からある日、「妻が亡くなった」と連絡が入りました。

在宅看取りと、ご主人の複雑な想い

ご主人は、当時まだ一般的でなかった在宅緩和ケアを選び、病院と連携しながら奥様を自宅で看取りました。

初めての取り組みに戸惑いもあり、思い通りにいかないことも多かったようです。
「こんなのうまくいかないよな」「緩和ケアって難しいな」と冗談交じりに語るご主人でしたが、その奥には怒りにも似た悔しさがにじんでいたといいます。

それでも、「娘たちに“怒っちゃダメだよ”って言われちゃってさ」と笑う姿には、家族に支えられながら向き合った日々の重みが感じられました。

通夜の場で交差したユーモアと感謝

通夜当日、喪主として挨拶に立ったご主人
話し上手な方だったので、てっきり自分の言葉で語るのだろうと思っていたところ、ご主人は葬儀社が用意した一般的な挨拶文の用紙を手に取り、読み上げ始めました。
少し意外に感じつつ耳を傾けていると、その定型文の最後に差し掛かったとき、文中の注意書き「この挨拶は通夜開始後30分後に行います」までそのまま読み進めました。
「あ、これ読まなくていいやつだった」と照れくさそうに言うと会場は笑いに包まれました。
そしてその直後、祭壇を見つめながら、静かにこう語りかけました。

「こんなバカなことばっかり言ってる俺を、ずっと支えてくれてありがとう。」

その一言が、深く、静かに、心に沁みました。
長いスピーチではなかったけれど、まっすぐで、その人らしい言葉。

その場にいた誰もが、思わず胸を熱くした瞬間でした。

人柄がにじむ“その人らしい”お別れ

式が終わったあと、「本当にいい挨拶でしたね」と声をかけると、ご主人は少し照れた様子で笑っていました。

ただ、その後お坊さんから「通夜の挨拶でふざけるとは何事か」と真面目に叱られてしまったそうです。そのオチまでが、その方らしくどこか温かい記憶として心に残っています。

【担当者の一言/新井さん】
時間としては短い挨拶ではありましたが、悲しみや悔しさや怒り様々な感情が渦巻く中でもご本人らしさを失わず、奥様への想いを乗せた心に響くご挨拶でした。こちらのご家族とは葬儀後も仲良くさせて頂いています。こういったご縁を大切にこれからもご家族に寄り添って行きたいと思います。

取材協力

お葬式のむさしの

〒368-0005
埼玉県秩父市大野原590-3
TEL:0494-25-3794 FAX: 0494-25-3332

【取材後記】
ご主人の一言が笑顔と涙を呼び、記憶に残る瞬間となりました。その人の人生や関係性が、ふとした言葉やしぐさににじみ出る、そんな葬儀の尊さを改めて感じさせてくれる取材でした。

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