父が最後にかけた言葉とは。
親子の絆を感じたお別れでした。
少年らしいお顔
3年前のある日の夕方、10代の学生の方で飛び降りをしてしまった子の処置をしてほしい、と葬儀社から連絡が入りました。急いで葬儀社に向かうと、葬儀担当の方から『少年らしいお顔』にしてあげてほしいと言われ、『少年らしいお顔?』と思いながらも故人と対面しました。吸水シートなどで頭がぐるぐるに巻かれていたのでかなり状態が悪かったそうです。基本、一人で処置を行うそうですが、当時まだ新人だった納棺師の内藤さんは、先輩と2人で処置を行いました。なにをしたらいいかもあまりわからず、ただ、先輩の足手まといにならないように処置を行いました。
最後にかけた言葉
処置をする前は、ちょっと悲しそうに見えた故人のお顔。処置が終わり葬儀担当の方から『少年らしくなったね』という言葉をいただいた時には、故人のお顔は安らかな顔をして寝てるよう見えたそうです。その時『少年らしいお顔』ってそういうことか、と感じたそうです。当時の所長だった方から処置に行ったから、納棺式にも行っておいでと言っていただき、納棺式もお手伝いする事になりました。故人はお父さまとお兄さまの3人で暮らしており、2人はとても悲しみに暮れていました。
内藤さんが納棺師になる前、葬儀社で働いていた事もあり、自ら命をたった方を多く見てきました。大体の人は、「なんで自殺なんか、、」「気づいてあげられなくてごめんね、、」などの後悔を口にしたり、「なんで、、」「どうして、、」と少し責めるような言葉を言ってしまう方が多いイメージだったそうです。ですが、そのお父さまが最後にかけた言葉は、内藤さんがイメージしていた言葉とは違いました。旅支度の六文銭を故人の懐に入れながら『気を付けて行けよ、、!』と言葉をかけたそうです。棺には、故人が頑張って取り組んでいた剣道の道着を入れてお別れをしました。
悲しみに暮れている中でも、故人をきちんと送り出してあげる言葉をかけた事に、すごいなと感じたそうです。自ら命をたってしまった方の納棺のお手伝いすると、内藤さんはこの日の事をより思い出すと仰っていました。
仕事に少し慣れてきた頃、もう少しあの時何かしてあげられる事はあったんじゃないのかなと思う時もあった。ただ、自ら命をたってしまった子たちが、天国に行った時にその子たち同士で仲良くしているといいな。報われてほしいな。という思いで故人と向き合っているそうです。
【担当者の一言/内藤さん】故人様にとってやり直しができないたった一度のお葬式、その中での納棺式。ご葬家様、故人様にとって後悔のない最期となるよう、これからも寄り添い、そして学びを続けていければと思います
【取材後記】とても悲しいお別れで、お父さまもきっとやり切れない思いの中、かけてあげた言葉に自分だったらどんな言葉をかけてあげられるのだろうと考えさせられました。処置をする際に『亡くなる前に私に言ってくれたら一緒にご飯に行ったのに~』などと故人に話をかけながら処置をするとお話してくれた内藤さん。そんな内藤さんの寄り添いや、仕事への姿勢などもお聞きする事ができました。