最後に解けたわだかまり~音楽の力が心を動かす~【心の音社】

70才の主人を送るお葬式。参列者は妻、娘、故人の弟 3名。

生前からわだかまりがあり会話すらほとんどなかった夫婦生活。

そんな関係だから、とにかく安くお金をかけたくない葬儀を希望。

そこに間を持たせるだけに呼ばれた、エレクトーン献奏アーティスト中村さん。

気まずい雰囲気の中で式が始まった。

普段とは違う依頼に戸惑いながら

演奏依頼の際に担当者から、いつもの声と違うトーンで、「演奏をお願いしたいのだけど……今回はなるべく安い式にしたいそうで、開式時間も午前7時になります。演奏もお客様の要望ではなく、式の間が持たないので当社の経費でお願いしたくて。だから、ご遺族からの想い出の曲とかエピーソードは特にないんです。それと会場ですが普段のホールではなく、普段ご住職の控室になっている狭い和室で行います。だからエレクトーンが入らないので、今回は扉の前で演奏して欲しいのですが。」

状況がよく理解できないまま、当日会場へ向かいました。

冷ややかな葬儀

今回の葬儀式は普通の式ではなく、お坊さんも呼ばず、ただ出棺の時間を待つだけのものでした。FAXの弔電を一通読み終わると、その後は何もなく、担当者が「棺の中のご主人に最後のお別れを」と促しても、お顔を見る様子もありませんでした。そして、奥様がぽつりと「私たち夫婦は、生前に色々とあり、だんだんと会話もしなくなりました。だから、いまさらこの人に何の感情も湧かないんです。」と、夫婦間のわだかまりを、吐露されました。

音楽の力が心のわだかまりを解かす

今まで経験したことない、冷ややかな雰囲気の中で献奏をするのには戸惑いがありましたが、奏者として故人へ敬意を表し選曲した「千の風になって」「ふるさと」を心を込めて演奏しました。

すると曲の途中で突然、奥様がすすり泣き始めたのです。そして、曲の終盤には号泣に変わりました。
周囲の言葉には一切聞く耳を持たなかった奥様が、献奏によって心動かされ、ご主人とのわだかまりにも、最後の最後で区切りをつけることができたのだと感じました。

ありがとうの一言

演奏が終わり出棺が行われると、奥様が駆け寄ってきて「ありがとう。あなたの演奏があったから、最期にきちんとお別れができました。おかげで良い思い出だけを胸に、これからは前を向いて生きていけそうです。」と言ってもらい、この仕事をしていてよかった、そして“音楽の力”を実感しました。

【担当者の一言/中村さん】ご葬儀での演奏に出会って10年。これまで、ご葬儀における「献奏(音楽)」の役割は、〝故人様らしい最期の時間を作ること〟〝参列者の哀しみを和らげ癒すこと〟〝故人様を音楽と共に記憶に刻むこと〟の3つにあると考えていました。しかし今回のご葬儀で、新たな献奏の意義を知ることができました。〝きちんと哀しみ、お別れをする後押しをすること〟故人様亡きこれからを生きていくご遺族にとって、別れ際の後悔は、これからの人生を大きく左右します。言葉ではなく、音楽だからこそできたこと。私自身、改めて「音楽の力」を実感させていただきました。

【取材協力】

【編集後記】さまざまな、夫婦模様があるように葬儀においてもそれぞれの形があります。ただ、中村さんが経験した葬儀は、多数の難題が降りかかる大変な葬儀だったと思います。そんな中で、故人に寄り添いながら弾いた心からの演奏が、夫婦のわだかまりまで解かしてしまう、あらためて「音楽の力」を実感させていただきました。

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